2013年12月17日

苦節11年間

「勝てないプロ」と言われ続けてきた宮里優作が、
ツアー最終戦の「ゴルフ日本シリーズJTカップ」で初優勝を果たした。

きっと、多くの人がこの優勝に歓喜の声を上げたと思う。
俺も、最終ホールのチップインを見て思わず「やったゼ!」とガッツポーズをして叫んだ一人だ。

ジュニアの頃から「天才」と呼ばれ、
アマチュア時代に数々の栄冠を持ってプロの世界に進んだが、
11年間も勝てない時を過ごしていた彼。

その戦歴からも「勝って当然!」と周囲から注目され、
妹の宮里藍の活躍から比較されて、「もっと頑張れ!」と常に激を飛ばされ、
若手の後輩たちがどんどんと優勝していく中で、「初優勝はまだか?」とプレッシャーを受け続けながら11年間も優勝出来なかった彼の心中を考えると、
あの優勝シーンは涙なくしては見れないものだった。

しかし、それ以上に俺は、
彼の活躍を常に願っていたのだった。


実は、今からさかのぼる事6年前。
俺は「日本プロゴルフ選手権」のボランティアとして群馬県のレーサムゴルフにいた。
そう、あの「石川遼」のラウンドにスコアラーとして付いて回ったあの話だ。
(日記はこちら→「むら、プロツアーに出る!」」)

そのボランティアの二日目。
再びスコアラーを任命された俺が付いた組に、なんと宮里優作がいたのである。

予選二日目の大事なラウンド。
今日のスコアの良し悪しで、決勝進出になるか?それとも予選敗退か決まってしまう大事な一戦。
その大事な一戦に、ゴルフを始めて1年足らずの右と左をよく間違えるゴルフ初心者の俺が
スコアラーとして一日張り付いていたのだった。

その時の組み合わせは、
「宮里優作、藤田寛之、深堀圭一郎」というメンバー。
今、振り返ってみると、何という豪華メンバーに囲まれていたのか!と自分でもビックリするが、当時はまだゴルフの事も、どんなプロがいるのかもよく分からない俺。
「プロってスすげぇボールを打つなぁー。
 うわっ。一体どこまでボールが飛んで行くんだ?
 バシっと打って必ずビタっですかっ。ほんにスゴイ!」

ただただ周りの状況に圧倒されていたギャラリー気分のボランティアだったのである。

ちなみに、「スコアラー」とはどんな仕事か?と言うと、
プラカードを持って選手のスコアをギャラリーに知らせる係り。
リアルタイムで、刻々と変化するスコアの情報を正確に伝える重要なミッションを背負っている。

各組には、「マーカー」と呼ばれる選手のスコアを記録する係りが付いてはいるが、
スコアラーは、自分自身で選手のスコアを数えていかなければならない。
なぜなら、プロのプレー進行はものすごく早くて
いちいちマーカーに「今、いくつでした?」と聞いている余裕は全く無いので、
自分で選手のプレーを見ながらプラカードの表示を変えていくのだ。

でも、ここでよく考えて欲しい。
その重要な係りに、まだゴルフを始めてたばかりのピッカピカの一年生の初々しい俺。
しかも、自分のスコアを数えるのにカウンターでは数が足りなくなるという超ゴルフ初心者。
さらに、ルールだって完璧にマスターしているワケじゃないし、プロのプレーを生で見るのもこれが初めての経験。

という事は、一見いかにも
「私はボランティアですけど、ゴルフは上手いですよ!」
という涼しい顔してプロの近くに立ってはいるが、
実際は、
「えっと、今はパーだったらかスコアの変動なしで、
ボギーは+1だから合計を変えなきゃ。」

と、あたふたしながら一緒にコースを回っていたのだった。


そんな時、宮里優作のティーショットがOBになった。
その場から打ち直して、次はフェアウェイ。
そして、グリーンに乗せて2パットでそのホールは上がった。

「えっ、今のいくつのスコアになるの?
OBは1打罰だっけ?それとも2打罰だっけ?
でも、ボールを打った回数が全部で5回だからボギーだよね?」


次のホールに行くまでにはスコア表示を変えなければならないが、
計算するのも一苦労。
焦りと緊張とよく理解していないが加わってもう冷静に計算も出来なくなっている。
とりあえずボギーって事で「+1」の表示をして歩いていたら、
宮里優作がスッと俺に近寄ってきて、
「さっきのホールはダボだから、表示違うよ」
と小さく囁いたのだった。

「えっ、そうなの!?」

とんでもないミスをやらかしてしまった俺。

スコアを計算間違えする失態に、
それを堂々と表示してギャラリーに見せる失態。
さらには、プロ自身に「ダボだよ」と言わせた失態。

ただでさえOBを打って心が穏やかでない状況に、
プレイヤーが口に出したくない言葉を言わせてしまうという
ツアー史上初の最低最悪のミスをやらかしてしまったのだった。

もう、恥ずかしいやら情けないやらの気持ちで一杯になっていたが、
不思議と「あーあ、やっぱり俺ってダメだな・・・。」と落ち込むことは無かったのである。

なぜなら、その時の彼は、
いつも間にか静かにそっと俺に近寄ってきて、
さらに、何となく会話すような感じで耳の横で小さく「ダボだよ」と囁いて
また何事もなかった涼しい顔をしてウェアウェイに戻り、
そして真剣な顔つきのプレイヤーに戻っていったのだった。

その一連の所作を間近で見た俺は、
「なんてスマートな立ち振る舞いなんだ・・・。
ほんと、優しい心に満ち溢れているよ・・・。」

と感じた。

彼はもしかしたら、
表示に手間どりあたふたしている俺を見て
「うん?初心者さんかな?」と感じたのかも知れない。

でも、それを分かっいたとしても、
自分のプレーに徹しなければならない状況の中で、
ただのボランティアにあんな風に声を掛けられるだろうか?

そして俺は一瞬で「宮里優作ファン」になったのは言うまでもない。


そんな思い出が詰まった彼が、ついに初優勝を果たした。

これからは、この勢いに乗ってさらに優勝を重ねて行って欲しいと
この信州の雪空の真ん中で願っている俺なのである。





Posted by アマゴルファー・むら at 23:40 Comments( 22 ) 番外 プロゴルフ

2013年12月12日

決別

「ゴルフの一番の欠点は、
それが「止められないほど面白いゲーム」という事だ。」


と誰かが言ったが、そんな止められない止まらないカッパえびせんの様なゴルフに、
俺は「さよなら」を言わなくてはならない時が来てしまった。

ここ信州のゴルフ場がクローズになる12月。
早いもので、俺がゴルフを始めてから今年で丸5年、
5回目のオフシーズンに突入しようとしている。


「目指せ、シングルプレイヤー!」と声高らかにスタートを切り、
まずは「知識だ!」と書店に置いてあるゴルフ雑誌を片っ端から立ち読みし、
次に「スクールだ!」と数々のティーチングプロのドアを叩いて、
あとは「練習だ!!」と最低でも週に1回、多ければ毎日の様に練習場でボールを打ち込んできた。

コースにも足を運び、月2回という限られたラウンドの中で実践と検証を繰り返しては、
日々変化する自然の中で、天気を見て気温を感じ風を読んではコースとの対話を続けてきた。

芝の種類やグリーンの形状、ハザードの位置、レイアウトなど、
どんな意図を持ってコースが設計されているかを考えながら、
併せて自分の身体のコンディションを確認しプレーの戦略を立て、
その時に最適なショットを選択していく。

しかし、スイング技術の数より欠点の数の方が多い俺には、
イメージするマネジメントを確実に実行出来るだけのスキルはまだ身に付いていはいなかった。

「どうしてスライスになってしまうのだろうか?」
「なぜ、いつも短いアプローチがトップになってしまうのか?」
「パターの距離感が全く合わない・・・」


俺の悩みは尽きることなく溢れていた。




「もう、今年も終わってしまうんだな・・・。」

毎年いつも感じる事だが、
一年なんてアッという間に過ぎて行く。

「行くな!まだ行っちゃダメなんだ!!」
とどんなに願ってもアッという間に過ぎて行く。

「我慢だっ。もっと我慢するんだっ。よっ・・・」
と強くしっかり言い聞かせてもアッと言う間に過ぎて行く。

でも、それは仕方がない。
季節は常に変わって行くものだし、
また季節が変わるからこそ新しい気持ちに切り替えることも出来る。
そう考えればこのシーズンオフも、
ゴルフの上達には「必要不可欠な要素」なのかもしれない。



俺はこの冬、
自分自身のゴルフを見直そうと思っている。

今までの丸5年間に身に付けた知識と経験を全てリセットして、
始めからからゴルフを見つめ直そうと考えている。

クラブの持ち方から始まって、
グリップの握り方、アドレスの取り方、テークバックにトップにダウン、
インパクトからフォロー、フィニッシュに至るまでの一連のスイング動作。

ドライバーの打ち方、ボールの飛ばし方、
アイアンショットに寄せるアプローチ、
ウェッジでのバンカーショット、1ピン以内は確実に決めるパッティングなど、
今まで蓄積してきたありとあらゆるプレーをゼロにして、
「ゴルフとは何か?」
「なぜ俺はゴルフをするのか?」
「俺にとってゴルフとは一体どういうものなのか?

というところまで戻って、自分自身を見つめ直そうと思っている。

果たしてその結論が、オフシーズンの間に明らかになるのかは分からないが、
しかし、この「ゴルフとの距離を置く」というステップは、
冷えてしまった二人の関係をもう一度修復すると同じくらいに大切な事だと俺は思っているのだ。



雨は夜更け過ぎに雪に変わっていく事の多い信州の冬。

今年の冬も、また例年通りの寒さがやってくる予感を
朝、凍ったフロントガラスをみて感じている今日この頃。

俺のキャディーバックは、いつも積みっぱなしにしてある車のトランクから降ろされて、
押入れの隅に静かに片づけられた12月の日であった・・・。





Posted by アマゴルファー・むら at 23:01 Comments( 17 ) 日常雑記 100の壁 シングルプレイヤー

2013年11月21日

ストレスとの戦い

丸5年間に渡るゴルフ練習の結果が全て出揃ったのを目の前にして、
俺の心と身体は、大きなストレスに見舞われてダウン寸前の状態になっていた。

何に対しても全くやる気が起こらず、
ただ一日の時間が過ぎるのだけをボケーと待ちながら、
ふらふらと世の中を彷徨っている「生きた屍」の様な日々。

常にうつむき加減で、窓の外を見つめては「ハァァァ・・・」とため息を吐き出し、
何かに思考を巡らしている様な素振りでありながら実は何も考えていない状態で、
あらかじめ設定されたプログラムだけを忠実に実行するマシンと化して一日を過ごしていた。

持ち前の、
「明るく」「元気に」「前向きに」という冬でも半ズボン姿で飛び回る姿は隠れて、
代わりに「暗く」「病的に」「後向きに」という「ヒロシですっ」みたいな姿に変貌し、黒々としていた髪の毛も、いつの間にか白いモノが所々に交じるヘアースタイルに変わりつつあった。

ストレスというものは、
ここまで人の姿を変えてしまうのものなのか?と、
やっと今になって気付いた俺。

今までは、
「ストレスってなに?あの喫茶店にいる人?って、それはウェイトレスだろ!
と返事をするくらいストレスとは無関係な生活を送っていたが、
もはやそんなボケを噛ます余裕もない切り切り舞いの生活に変わり果ててしまったのだった。

そして、俺はふと思った。

この「ストレス社会」と叫ばれている現代社会の中で、
人々は一体どうやってストレスと戦いながら生きているのだろうか?

どんな方法でそのストレスを解消し発散して
普通の生活を送っているのだろうか?

ストレスを解消する術を知らない俺は、
とりあえず「どんな方法が有効なのか?」にボケーっとした意識を向けることにした。


まず俺が、ストレス解消法として思い付くことと言えば酒だ!

噂によると関西の方では「飲んで飲んで飲まれて飲んで」を繰り返しながらストレスを解消しているらしいが、あいにく関東圏に属する信州人の俺には、その方法を実行するだけの
「強靭な肝臓」を持ち合わせていない。

さらに、ストレスと戦う前に尿酸値との格闘を続けている俺にとっては、
必要以上の「アルコール厳禁!」と医者からストップも掛かっている。
また右足の指先に激痛が走ったりしたら大変だしなっ。


次に思いつくことは、やっぱり食うことだ!

誰だって、
美味しいもの、好きなものをたらふく食べれば、
嫌な事だって忘れることが出来るだろう。

じゃあ、何を食べに行こうか?

ジューシーで柔らかい歯応えの「信州牛のステーキ」か?
それもいいけど、メタボリックなウエストと高いコルステロール値を示している俺のボディーには
ちょっと合わないな。

それより、秋に新しく獲れたそば粉で打った「戸隠そば」か、
甘い蜜が中にたっぷり詰まっている「ふじ」のリンゴか?

でも、普段から食い慣れている物だから、
あえて腹いっぱい食べたいとは思わないぞ。

なら、甘いスイーツ、チョコレートはどうだ!
いや、女子じゃないんだから、
そんな物を朝から食べたらきっと鼻血が止まらなくなるぜ。


という事は、俺が思い付くストレス解消方法って、
最後に残るものはもうコレしかないぞ?

「愛に溺れる」
という手段。


このボロボロになった俺の心と身体を、
温かく柔らかく肌に包まれながら優しく優しく癒してもらいたい。

そして、時には激しく狂う様に燃え上がって頭の中を全て空っぽにして
また時には、静かにそっと何も動きもいままで強く抱き締め合っていたい。

まるで、母の胸で安心しきってスヤスヤと寝ている子供の様に、
そんな大きな胸の中で俺も心安らかに眠りにつきたい。

嫌な気持ちも、嫌な思いも全部全部吹き飛ばして忘れられる
「愛の世界」溺れてしまいたい!


分かった。
今夜はお前と一緒に寝ようじゃないか。

こっちにおいで。

俺の愛しいミーよ・・・。












Posted by アマゴルファー・むら at 00:12 Comments( 14 ) 日常雑記 メンタリティ 100の壁

2013年11月15日

存在

「いいですか?とにかくパットが全てです!


このラウンドが「人生で二回目のゴルフ」という女性に、
スタート前の練習グリーンで話し始めた俺。

自分のプレーも、この「ラストコンペ」に全てが懸かっているが、
そんなところではない。

まずは、「ゴルフって面白いの?」という印象を抱いているこのビギナーさんには
「ゴルフの楽しさ」を感じてもらわなければならない。

聞くところによると、初めて参加したコンペでのスコアが「227」で、
今回は「もっといいスコアを出したい!」と思って参加を決めたらしい。
出来れば、「何か賞品にも与かりたい」と。

そんな事なら「お安い御用ですゼ!」と、
大丈夫!心配ない!と言い切った俺。

前回の「227」というスコアを改善することなんて、
俺が100切りするより簡単な事さ!

なぜなら、「スコアの良し悪しを決めるもの」パッティング
最低でも3回でボールがカップに入れば、
20打、30打のスコアを縮める事なんて楽勝だとう事は既に経験から分かっている。

「いいですか?距離感、タッチが全てなんです!!」

ゴルフ初心者の俺が、ゴルフ初心者にレッスンを始めたのだった。


「ここのグリーンは、すっごくボールが転がるんですよ。
なのでパッティングは、ボールを打っちゃダメです!


一瞬、
「えっ、ボールを打ってはイケない?それってどういう事なの??」
と意味が理解できない表情をした彼女に、
俺は続けてこう言った。


「いいですか?ボールを打っちゃダメですよ。
パターのヘッドで
「パチン!」みたいな感じに。
そうじゃなくて、右手でボールをカップまで転がす感覚なんです。
優しくそしてソフトな気持ちで、肌をなでる様な感覚で・・・。」


俺が、唯一の自信を持っているのは、
このパッティングだった。

スコアは未だに100すら切れない状態だが、
その内容を分析すると「平均パット数=33」となっている。

何故こんな数字を出せるのか?と言えば、
それは今までの経験が活きているとしか言いようがない。

優しくソフトなタッチング。
まるで、水鳥の羽が俺の指先についているかの様なタッチは、
多くの人を魅了し虜にしてきた。
その中には、熱い吐息を漏らした人に、言葉にすらならない声を出し続けた人もいる。
そんな俺のタッチングに夢中になった人たちは、
その華麗なる指先の動きを見てこうささやいた。

「まるで、羽毛に包まれているみたいだわ・・・。」
と。

そうさ、俺が夜な夜な鍛錬に鍛錬を重ねて受け継いだ指先は、
その動き方から「水鳥拳」と言われているのだからな。

蝶の様に舞い蜂の様に蜜に群がり羽毛タッチで背中をなぞる
「何と水鳥拳のむら」だって。

中国4千年の歴史には程遠く及ばない、
ゴルフ丸5年の歴史は伊達じゃないんだゼ!

一子相伝、秘伝の奥義を惜しみもなくビギナーゴルファーに伝授してしまった俺。

だが、これも俺の役目の一つだった。
「秘伝を継承させる事」が、俺に託された運命だって事は、
秋の夜空に輝く「死兆星」が見えた時から既に覚悟していた事だった。



「じゃあ、ドライバーで打ったら、
後はこの二本のアイアンだけ持って自分のボールの所に行ってくださいね。」


そう言いながら、彼女に「7番アイアン」「9番アイアン」を手渡し、
「とにかく、最後までしっかりクラブを振り切って!とだけ伝えてコースに送り出した。


最初の2ホール、彼女はクラブにボールを当てる事すら出来なかった。
やっと乗せたグリーンでも、
ボールを打ちすぎてアッチに行ったりコッチに行ったり。

しかし、どんどんとホールを進んでいくに従って、
感覚が分かってきた様子を見る事が出来た。


「そうです!アイアンも「ボールを転がすイメージ」でスイングしてください!
決して、
「ボールを高く上げよう」って思っちゃダメですよ!
芝の上でボールが転がるように打ってくださいね!」


彼女には、
「フェアウェイでは強くボールを転がす!」
そしてグリーンでは、
「優しく柔らかくボールを転がす!」
と呪文の様に言い続けた甲斐があって、
ハーフ終了時点では、ついに「1パット」まで飛び出す結果となった。

「わー!入った!!」
と喜んでいる彼女に「ナイスパット!」と声をかけてハイタッチで分かち合う俺。

彼女の前半のスコアは「74」を記録し、
この時点で前回のスコアを30打以上縮めたのは確実だった。

そして、俺のスコアも「51」のパット数が「15」
この状況の中では、上々の出来だと自分でも納得する。

「後は、悔いが残らない様に、
全身全霊でプレーするだけだ・・・。」


再び心の中で決意を固くして
後半戦に突入したのだった。






後半俺は、二人の初心者さんには
何のアドバイスもしなかった。

二人には、伝えるべきことは全て前半で伝え切ったし、
何より初心者に必要な事は「習うより慣れろ」実践を積むという事が一番の自分の為になると身を持って体験しているからだった。

そしてこのラウンドは、
シングル目指して練習したきた俺の「最後のゴルフ」になるかもしれない大事な大事なラウンドだ。
後半は、自分自身に全神経を集中してプレーを進めて行きたかったのだ。


最終ホールを後一つに残して、
この「信濃ゴルフ倶楽部」の名物ホール、
17番のミドルに到着した俺。

左に直角にドックレッグしている336ヤードのパー4。

このホールの鍵は、
グリーン手前にある大きな池だった。





しかし、池と言っても水が入っていないカラの池。
一打目で200ヤード飛ばしてフェアウェイに落とせば、
残りは120ヤードの打ち下ろしになる。
池と言う存在を無視すれば、
簡単にパーで上がれるホールだった。

ティーショット。
俺がドライバーで打ったボールは、
右にスライスしながらもラフの端に止まっていた。

グリーンまで残り150ヤード。
前方から少しアゲインストの風が吹いている。
俺は、何の迷いもなく7番アイアンを手に取って
思い切りクラブを振り抜いた。

「アッ。」

当たりが薄い感触に、思わず大きな声を上げてしまった俺。

力の入ったスイングが、
ボールを左に引っかけながら池の方へ飛んで行ったのだった。

しかし、ボールは池の手前に落ちていた。

何という幸運なのだろうか。

池に入ってもおかしくないボールが、
池に入らずに止まっている。

「どうやら、神は俺に味方してくれたみたいだな・・・」

「捨てる神があれば拾う神がありで、世の中はそれでバランスを保っている。」
と誰かが言っていたが、
どうやら俺の努力も、土壇場の土壇場で天に通じたようだ。

カップまで残り30ヤードのアプローチ。
しかも、俺が一番得意としている距離も残っているじゃないか。

ライの状態を確認し、56度のウェッジを手に取って、
素振りでしっかりイメージを作った俺。
俺の頭に中には、
ボールがふわりと浮いてピンに絡んでいく映像だけが映っていた。


「ドテ・・・。」


おかしい。
ピンに絡んでいるボールが、
何と池に落ちていた。



「・・・・・・。」


言葉を無くして、
その場の呆然と立ち尽くす俺。

拾う神もあったが、やはり捨てる神もまだ俺の目の前にいた

動揺を隠せぬまま行ったパットは「4打」を数えた。
もはや、俺の前には悪魔だけが存在していた


この後の事はよく覚えていない。

ただ、手元にあるスコアカードには、
「55打、18パット」だけ書かれていたのだった。



そして俺は、
水鳥が水面の下で、
バタバタと足を動かしている横で弱々しくなびいている水草の様になって、
トボトボと家路についたのだった・・・。





Posted by アマゴルファー・むら at 23:40 Comments( 16 ) ラウンド コンペ シングルプレイヤー

2013年11月09日

ラストコンペ

忘れかけていたコンペを思い出し、
リベンジの炎を燃やして再び「信濃ゴルフ倶楽部」を訪れた俺。





秋深くなってきた北信州。
紅葉も今まさに本番で、赤く染まった楓の葉が深い緑に溶け込んで
綺麗なハーモニーを生み出していた。






「このチャンスだけはモノにするゼ・・・」

今後のゴルフへの取り組み方、「何を目標とするか?」を決めるラストチャンス
「シングル一直線!」という選択を取るか、それとも、「レジャーでエンジョイ!」という選択になるのか?

この、今シーズン最後のコンペの結果次第では、
前回提示された結果、そう、既に選びかかっていた選択を
大きく覆すことになるかもしれない

いや、自分の気持的には「絶対覆したい!」というそんな思いでいっぱいだが、
しかし、「才能」さの字すら持っていない俺でも、
「潮時」という言葉はしっかり理解している。

歴史に名を刻んできたアスリート達は、
みんな口を揃えてこう言った。

「引き際が肝心」だと。

そして、
「止めるか?続けるのか?」の判断をするのが一番難しかった。」と。

俺も、信州を代表する、いや、にっぱん国を代表する初心者ゴルファーとして、
今、その偉人たちの気持ちを、深く理解する心境にたどり着こうとしているのであった。

「分かったよ。泣いても笑っても、
この結果だけは潔く受け入れようじゃないか・・・。」


俺は、朝日で眩しく輝くコースを見つめて、
心の中でそう決意したのだった。






今回一緒にラウンドするメンバーは、
俺以外、全員女性。
しかも、その3人の内2人は「ゴルフ初心者」さん。
1人は、「今シーズン初めてコースに出る」と言い、
さらにもう1人は、このコンペが「人生で2回目のゴルフ」だという完璧な初心者さんだった。

こんなメンバーに囲まれた中で、
俺は今までかつてないほどのパフォーマンスを発揮し輝く未来を手に入れなければならない。
しかし、俺が自分のプレーに徹すれば、
当然「初ラウンド」「超ビギナー」の面倒をもう一人の女性が見る事になる。

さぁ、どうする?

俺には、これが最後のチャンスだ。
同伴者達は、これが最初のコンペだ。

俺は、このラウンドでチャンスを掴まなければならない。
彼女たちは、このラウンドでチャンチャンとプレーしなければならない。

そして俺は、自分も面倒を見てもらいたい初心者だ。
そして彼女らは、自分の面倒を見てもらわないとゴルフにならない初心者だ。

と言う事で、簡単に結論が出た。

「自分のプレーに徹する!」だ。

危うく、スタート前に余計な心配をして
心が落ち着かない状態になってしまうところだった。


「でも・・・?」

俺の心の隅から、そんな疑問が湧き起る。

「イイのか?本当にそれでイイのか・・・?」

だって、お前は男だろ?
常にチキンハートでいつもハートブレイクだけど、男だろ?
寒さの厳しい信州に生まれ、朝晩の冷え込みが激しい信州で育った男だろ?
お前が彼女たちの面倒を見るのが普通なんじゃないのか?

心の隅の隅の方から、
小さな声が聞こえてくる。

いや、俺、普通じゃないから!
普通以上に練習していても、全く上達しない人だから!
それに、自分の面倒を見れない人が他人の面倒見れるワケないじゃん!!

こんな状況でも、
俺の頭脳は冷静に状況分析を行っていた。

危なく、スタート前に取り乱して、
脈拍が上がったままプレーに突入するところだった。

「イイのかい?本当にそれでイイのかい・・・?」

お前ほどの初心者なら、
一体どうやってプレーを進めて行けば、
周りに迷惑かける事も無く、プレーの進行も遅くならず、
危険に目に遭わずに安全で安心して無事にクラブハウスまで戻ってこれるのかを
熟知しているじゃないのかい?

心の隅の隅、端っこの端っこの方から
大きな声が俺を包んでいった。

大丈夫だ!心配するな!!

俺は、心の声に負けないくらいの大きな声でそう遮って、
最後のチャンス「ラストコンペ」のプレーを
スタートさせたのだった。
2人の初心者さんの面倒は、最初から最後まで全部俺が見てやるぜ!
と大きな声を張り上げながら・・・。


To be continued.






Posted by アマゴルファー・むら at 23:04 Comments( 16 ) ラウンド コンペ

2013年11月04日

二つの選択肢

「雨垂れ、石をうがつ」
と言う言葉がある。

これは、
「どんなに小さな力でも、根気よく続けていればいつか成果が得られる」
の例えらしい。

しかし、そんな言葉を聞いても、
今の俺には馬の耳に東から風が吹くように、
「へっ?「うがつ」だって?そんな言葉いまどき使いまへんがな~。」
と、人差し指を鼻の穴に入れて口をポカ~ンと空けながらそう答えるだろう。

だいたい、「うがつ」とくれば、
うがつが上がらない亭主」とか、
「スーツのポケットにサービス券を入れたままにしたのはうがつだったよ・・・」
とかに使うのが日常的だ。

それに、
「どんなに小さな力でも、根気よく続けていればいつか成果が得られる」
という事には賛成が出来ない。

なぜなら、世の中には、
「どんなに頑張っても一向に成果の出ない人」だっているんだぞ?
小さな力で根気よく練習していても、全く上達しない人だっているんだぞ?
雨にも負けず風にも負けず、汗と涙と根性で重いコンダラ引きずりながら気合を入れて練習しても、
進化するどころか退化していく人間だっているんだぞ?
それを分かって、こんな言葉を言ってるのか?

もう、ダーウィンだってびっくりして、
「信州に「ガラパゴス」を発見しました!」
と新たな説を唱えちゃうぜ。きっと。


しかし、そんな愚痴をつぶやいていても、
「今の俺」が変わるわけでもない。
今シーズンの成果を占う「むらコンペ」で出された結果を目の前にして、
俺は、二つの選択肢から一つの答えを選ばなけらばならなかった

二つの選択肢とは、
「シングルを目指すべきか?」それとも「諦めるべきか?」


ゴルフを始めて丸5年。
今までは一心不乱にゴルフに打ち込み、ゴルフ中心の生活を続けてきたが、
「どんどん下手になっている」という事実を突き付けられては、
やはり「見直す時期かもしれない・・・」と考えるのは当然の事だろう。


「シングルだなんてさ、誰でも成れるワケじゃないんだ・・・」
「普通にゴルフが出来れば、それでイイじゃん・・・」
「俺に才能は無かったのさ・・・」


コンペでの結果を受ければ、
二つの選択肢のうち、どちらを選ばなけらばならないのかは既にハッキリしている。


「分かったよ・・・。俺も男だ・・・。」


口からその言葉を話すことに、身体は拒否反応を示し唇が震えている。
でも、ここで俺は、
勇気を持って決断しなければならないのだ!


「アマゴルファー・むらは・・・、
今シーズンをもって・・・、
ゴルフから・・・、
足を・・・、
あ・・・」


弱々しく段々と小さくなっていく俺の気持ち。

しかし、「決めた事は守る」というのが男じゃないのか。
何があっても「現実を受け止める」っていう潔さが男じゃないのか。
悲しくても寂しくても「信念を貫く」って姿勢が、信州男子だるものじゃないのか!


「アマゴルファー・むらは・・・、
今シーズンをもって・・・、
ゴルフから・・・、
足を・・・、
あ・・・
アッ!


大切な事を思い出し、俺の脳ミソが覚醒した瞬間だった。


「そうだ。11月の始めにコンペがあるんだった!!」

しかもその会場は「信濃ゴルフ倶楽部」
俺に二つの選択肢を与えたゴルフ場なのだ。


「これは、もう一回チャンスを与える!って事だよな?
もう一度チャレンジさせてやるから!って天からの贈り物なんだよな?
だから、「結論を出すのは少し待て!」って事なんだよな・・・?」



そして俺は、
リベンジの炎を燃やして、
今シーズン最後のコンペに臨むのであった・・・。





Posted by アマゴルファー・むら at 20:01 Comments( 15 ) 100の壁 シングルプレイヤー