パットのタッチ
脇腹に痛みを抱えている俺は、パットの練習に励むことにした。
以前先輩に、
「パットって、どうやって打てばいいですか?
基本の打ち方ってあるの?」
と聞いたところ、
「パットに型ナシ!」
と答えが返ってきた。
そうか、カップに入れば何でもいいんだな。
でも、急に”自由を宣言”されても、今まで「ルール」「マナー」「エチケット」を何より優先してきたので、
「いいの。あなたの自由にして(チュ)」
なんて言われても、逆にオロオロしてしまう。
まあ、とりあえず、好きなように打ってみることにした。
まずは、1メートルくらいの距離から。
同じ場所にボールを置いて、軽くストローク。
「カコンッ」
軽い音と共にカップイン。
おっ、いいじゃん。
じゃあ、次は2メートルだな。
とりあえず、ラインを読んでさっきより強めのタッチでストローク。
1球目、50センチくらいのショート。
2級目、カップインまで、わずか10センチ。
3級目、同じく、ナイスタッチだ。
おおっ。いいじゃんイイジャン!
ラインもそれほど外していないし、距離感もバッチリだ。
「天才とは、俺のために作られた言葉だろう・・・」
気を良くした俺は、ひたすらボールを転がした。
3メートル、4メートル、5メートル。
登りのライン、下りのライン。
フックにスライス。
まあ、1パットで入りはしないが、距離感は悪くない。
「そろそろ本気で入れてみるか」
と、3メートルくらいの距離からスタート。
軽いフックライン。
カップ右端いっぱいか、ボール半分外。
グリップの力を抜いてゆっくりストローク。
アレッ。入らない。
1メートルはオーバーしたか。
続く第2球目。
今度は30センチのショート。
しかも、ラインが外れている。
ヨシッ!今度こそ。
全てをこのボールに集中したパットは、カップのわずか手前で止まる。
「入らない・・・」
ほんの少し前、「天才」という名を欲しいままにした俺は、
呆然とそこに立ちすくむ。
あっ、そうか。いきなり3メートルがいけなかったんだな。
今度は、2メートルにしよ。
1球目、カップオーバー。
2球目、カップオーバー、ラインミス。
3級目、手前10センチのショート。
入らない。
入らないじゃないか・・・。
あっそうか。ちょっと見栄を張りすぎてたな。
やっぱり最初は、ショートパットからにしないと。
1球目、カップ左にそれて行く。
2級目、カップ右にそれて行く。
そして、3球目。
もう、ここまできたら入れねばならぬ。
ラインなんて関係なし。
真っ直ぐカップに向かってぶち込むだけだ。
大きく一つ息をついて、グリップを握る手をそっと緩め、
やさしく、ただやさしくストローク。
コロコロコロ・・・。
弱々しく転がっていったボールは、カップのエッジでぴたりと止まった。
「チキンだァ。
俺はチキンなんだぁぁぁ・・・」
これは、酉年生まれの宿命なのかもしれない・・・・・。
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