少しづつ、少しづつ・・・
あと2回のラウンドで、今シーズンのゴルフを終了する俺は、
ゴルフ歴30年のベテランシングルゴルファーと、
「白ティーレディース」のアスリートゴルファーとのラウンドに出掛けた。
これまでにない好調さを披露した前半のプレー。
やはり、
「これがもう最後のチャンスかも知れない」という切羽詰まった状況と、
ただ淡々と自分のプレーに徹するシングルプレイヤー達の姿には、
想像以上のパワーが引き出される事があるみたいだ。
前半の47打の内、
パーが3回。
そして、
バーディーが1回。
自分でも、
「実は俺って、やれば出来る子なんじゃない?」
と、過去の自分を否定したくなるほどのプレーを続けている。
「これは狙えるぜ、自己ベスト更新!」
と意気揚々とプレーを再開した後半の1ホール目も
「パー」でスタートしたのだった。
しかし、ここで罠が待ち受けていた。
続くロングホールで
「パーオン」を果たした俺は、
バーディーの甘い誘惑をキッパリ断ち切り
「確実にパー!」と2パットでホールアウトする事を考えていたが、なんと結果は
「4パットのダボ」。
続くショートホールでも
「5打のダボ」。
そして、サービスホールのミドルを
9打と大叩きして、
次々とスコアを増やしてしまったのだった。
「やっぱり俺って、やっても出来ない子だったんだ・・・。」
意気揚々は意気消沈し、明るい未来は暗い現実へと変化して、
今度は、ベテランゴルファーたちの
「冷たい視線」がその状況を切羽詰まったものにしていた。
「俺の、一体何が悪いというのだろうか・・・?」
頭の中はこの言葉で埋め尽くされて、
もう他の事は考えられなくなっていた。
いきなり、右に左に曲がり始めたドライバー。
まともにボールをインパクトすることが出来ないアイアンショット。
そして、ショートにオーバーで距離感が合わなくなったパッティング。
俺の意識は
「何が悪くてどうすれば良いのか?」と、
その原因を究明するだけの力は既に残っておらず、ひたすら、
「やっぱり、「練習すれば必ず上達する!」と言うのは嘘なんだな。
誰だよっ、「努力は必ず報われる」とか言ったヤツ!
本当は、「信じる者はバカを見る」が正しいんじゃないのか!」
と、世の中の全てを否定し
「ひねくれて星をにらんだ僕」になろうとしていた。
そこで、いきなり
「白ティーレディース」から、
「むらさん、手首使ってるでしょ?
左手の手首の角度は、アドレスからインパクトまでずっと一定だよ。」
とアドバイスが入った。
「えっ。俺、手首が動いちゃっていましたか!?」
自分では、全くそんな意識は無かったが、
どうやら手首がアッチ行きコッチ行きして
クラブフェイスの向きがバラバラになっていたらしいのだ。
あたたかい人の情けも、胸を打つ熱い涙も知らないで育った俺は、
ただ練習すればそれでイイんだと思っていたが、
やはり
「曲がらないショット」を打つためにはそれなりの
「コツ」というものが存在しているらしい。
そして、
このアドバイスを胸に刻み込んだ俺は2連続で
「パー」を取り、
ホールアウトまで残り2ホールというところにプレー進めていた。
「このロングホールしか、俺に残されたチャンスはナイぞ・・・。」
スコアを減らす為には、ここでバーディーをゲットするしか
「ベストスコア更新!」の道は残されていない。
しかし、今までの経験から
「欲を出して失敗する」自分を見ている俺は、
「パー狙い」に意識を変えてドライバーを打った。
第1打目。ボールがフェアウェイを捉えた。
第2打目。右に曲がりながらもグリーン手前までボールを運ぶ事が出来た。
第3打目。ガードバンカーに入れてしまった。
第4打目。ボールは出たが、グリーンオーバーでラフ。
第5打目。56度のウェッジでピンまで1.5mに寄せて1パット。
結局、ラストチャンスのホールを
「6打のボギー」。
もう絶対にスコアを増やしてはならないこの土壇場で
「+1打」を記録して、
俺の目の前で輝いていた夢は、
脆くも崩れ去ってしまったのだった。
気が抜けてフ抜けになった俺は最終ホールを
「パー」としたが、
そこに喜びを感じる事はなかったのだった。
悲しみに打ちひしがれて、
背中を丸めてカートにショボンと乗り込んで、
スコアの計算をしていた俺に、
ベテランゴルファーさんが声を掛けてきた。
「お前、後半「47打」でいいか?」
と。
「うんそう、47でいいよ・・・。えっ、ちょっと待って!
「47打」だって!?」
確かに、後半のスコアは
「47打」で収まっていた。
という事は、合計
「94打」で
「自己ベストスコア更新!」じゃないのかーーー!?
今シーズンの終了間際で、
今までの自己ベストを
1打更新した俺。
「それにしても、たった1打かよっ。」
軽く
「チェッ」と舌打ちしながら、
俺はこの勢いを持って、
今シーズンのラストラウンド
「コンペ」に乗り込むのだった・・・。
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