心を鍛える
一人予約で、格安キャンペーン中の
「飯綱高原ゴルフコース」に乗り込んだ俺。
ティーグラウンドには、既に当日組み合わせの人達がスタートの順番を待っていた。
「霊仙寺湖」のほとりにあるこのゴルフ場は、
9ホールを2回まわってラウンドするスタイル。
もちろん
「乗用カート」なんてものはなく、
自分で自分のキャディーバックを台車に載せて
「手引き」しなければならない。
スタート前のストレッチもそこそこに、
台車をガラガラ転がしてスタートホールに着いた俺。
「あっ、どーもっ。むらと言いますっ。」
初めて出会った人達にすかさず挨拶をした。
「実はわたし初心者なんですけど、
ご迷惑を掛けないように頑張りますので、よろしくお願いしますっ。」
勝負の世界では、
「機先を制する」事が何よりも重要な戦術であると、
俺は
「バカボンド」を読んで学んでいた。
ならばこの場面でもその教えを活かさない手はない。
誰もが初めての人と一緒にゴルフをする時は、
「一体、どんな実力の持ち主なんだ?」
と不安に駆られているから、ここであえて
「下手ですっ」と宣言することによって相手に優越感を与え、そして、和やかな雰囲気の中でプレーしていくことが可能になる。
これが、俺の長い期間の中で学んだ
「初対面の人とでも一瞬にして打ち解ける」鉄則なのだ。
一緒にラウンドしてくれる人達は、
30代~40代くらいだろうか、
外見は
「普通のおにいさん」達。
しかし、約1名の人は、
どう見ても
「カタギの人間ではない!」と俺の瞳に映っていた。
ガッチリした身体に180cm以上はある背丈。
頭には白い小さな帽子を乗せているが、髪の毛らしきものは見えない。
どうやら
「スキンヘッド」を隠している様だ。
しかも、顔が半分以上隠れるドデカいサングラスを掛けてその表情を見せることなく、
さらに全身からは
強烈なオーラを放っていた。
「気安く俺に近づくんじゃねぇぞ。」
と・・・。
「うわぁ~、どうしようっ・・・。
これは、本当に下手なプレーで迷惑を掛けられないぞっ・・・。」
「機先を制した」にもかかわらず、
既に
その場の空気にのまれてしまった俺。
心も身体もピキンピキンに緊張したまま、
同伴者のティーショットを見つめるだけだった。
3人が3人ともナイスショットだった。
澄み渡る秋晴れの空にピッタリ似合う
爽快なドライバーショットを放っていた。
そして俺のティーショット。
硬くなった身体と心は、
見事なまでの
「どフック&どチーピン」を出現させていた。
俺のショットを見て、
その場に流れる微妙な空気。
「おい・・・。
今日はこんなヤツと一日一緒にラウンドするのかよ・・・。」
という同伴者たちの心の声を聞かないふりして、
イソイソと自分のボールのもとへ駆け寄って行った俺。
急いで7番アイアンで第2打目を打ったが、
また引っかけのどフック。
第3打目はトップボールで、第4打目は右にシャンクし、
アプローチではダフり、次のショットはバンカーに入れて、
結局グリーンに乗るまでに
7打も掛かっていた。
パットは何とか2つで収めて、
スタートのミドルホールを
「9打」でホールアウトした俺。
微妙な空気はいつの間にか、
「あ~ぁ・・・。今日は本当についてないな。
こんな初心者と一緒だなんて・・・。」
という確実な状態に変わっていた。
恐いお兄さんは、俺の事を
「ムラちゃん」といきなり呼びながら、
「まぁ、最初はやっぱり緊張するよな?」
と優しい声を俺に掛けてくれていた。
この言葉に、俺の心はホンの少しほぐれてきたが、
しかし、いつまでたっても俺のチーピンは
直ることが無かった。
結局、前半は
「57打」のスコア。
そしてパット数が
「17」。
失意の中で前半のプレーが終了していった。
後半のプレー。
今日、この場所で初めて出会ってゴルフをした同伴者たちとも打ち解けて、
アッチの世界の住人に見えるおにいさんともいつの間にか和やかな雰囲気の中で
言葉を交わすようになっていた。
俺は、どこまでも澄み切った真っ青な空の下で、
気持ちをスッキリとリセットさせてプレーをドンドンと進めて行ったのだった。
「手引きカート」でのプレーが、
突然
「乗用カート」を借りてきた強面のおにいさん。
その事について、
「えっ、どうしたんですか、コレ?
イインですか、俺たちが使っても?
だって、お金も払っていないですよっ」
などと
野暮な質問だけはしないように俺は心掛けていた。
そして、最後の18番。
162ヤードのショートホール。
俺は、この日初めての
「バーディー」ゲットして
後半のスコアを
「51打」。
パット数が
「15」で、ドキドキの
「一人、予約なし、当日プレー」を締めくくり、
目の前に広がっている景色を眺めながら、
この
「飯綱高原ゴルフコース」後にしたのだった・・・。
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