大いなる「壁」

アマゴルファー・むら

2014年08月23日 20:18

無謀にも、バックティーからのラウンドに臨んだ俺。
しかしながら前半のプレーは「50打」だった。

今のところは不安要素はない。

あれだけ右に左に曲がっていたドライバーショットも、
真っ直ぐ飛んで距離も出ている。

1パットこそ決まっていないが、
タッチもラインの読みも合っている。

きっと、あと何かが噛み合えば、
「パー」いや「バーディー」も決まってくれるハズだ。

俺は、「それが一体何なのか?」を思考を巡らす余裕もないまま、
後半のプレーに突入した。


ティーグラウンドでティーの上にボールを乗せて、
打ち出す方向にボールに書かれている矢印を合わせていく。

それから、一度後ろに下がって、
ターゲットが正しく取れているかを確認して一回素振り。
それと共に、「フゥ~」と身体の中から息を吐き出す。

後は、グラブヘッドをフィニッシュの位置まで
一気に振り抜いていくだけだ

同伴者からは熱い眼差しが俺に注がれている。

「前半はまあまあのプレーだったけど、
後半は果たしてどうなるのか?」

という「疑いの視線」が混じった突き刺すような視線だ

それと共に、ティーグラウンド一帯にも
重く息苦しい緊張感が漂い始めた。

「どんなスイングをするのか?」
「どこにボールを打っていくのか?」
「飛距離はどこまで伸びるだろうか・・・?」


そんな事を思っているのかは分からないが、
「つぶさに見られている」
という事だけは俺にも感じ取る事ができた。

競技会に出ているアスリートたちは、
いつもこんな緊迫した空気の中でプレーを行っているというのか?

初めて味わう雰囲気に、
俺は飲み込まれそうになっていた。


そして俺はティーショットを放った。

ヒュン。バチンっ。ビューーー!

と勢いよく飛び出して行ったものの、
左に大きく引っかけてしまった。

「ヤバイっ。フックが出ちゃったよっ。」

いつも通りの俺がその場に出現していた

これまで好調だったドライバーショットに、
内心「やっとスイングの肝が分かったぞ!」とほくそ笑んでいたが、
その公式は、緊張感の前では全く役には立たのかったのだった。

後半、
最初のミドルホールを「トリプルボギー」
しかも「3パット」

夢の実現に向かって順調に進んでいたプレーは、
ここで一気に崩れ去ろうとしていた。

続くロングホールでも、また「トリ」
さらに続けて「3パット」

追い打ちを掛けるように、
取り返しのつかない状態にまでカラガラと落ちてきてしまった俺。

「あぁぁぁ・・・ぁ。やっぱり無理なんだよ、俺には・・・。

レギュラーティーから回っても「100切り」出来ない俺が、
ちょっとドライバーが好調だからと言ってバックティーからプレーするなんて
身の程知らずにも程がある。

それに、スクラッチでの競技会だって一度も出た事がないんだから、
それは「無謀」というより「不可能」と呼ぶのが正しいだろう。

自分の現実を改めて直視した俺は、
それでも、残りホールにほんの僅かな可能性がある事を信じながら、
プレーを続行して行った。

しかし、
「パーを狙うんじゃなくて、もうボギーでいいんだよ・・・。」
と自分に言い聞かせてプレーをしているが、
スコアは、
「ボギー、ダボ、ボギー、ダボ」
とドンドン増えて行くばかりだった。

パットもほとんど決まらない。

ラインは読めてタッチも合ってはいるが、
あと少しの惜しいパットばかりが続いていた。




「もうこのホールが、
俺に残された最後のチャンスなのかも知れない・・・。」


最終ホールの一つ前。
池が二つあるロングホール。

距離が短いので、
確実にフェアウェイキープさえ出来れば、
俺にでも「パー」が拾えるホールだ。

後半のスコアを計算していた訳ではないが、
もしこのホールを「パー」で上がれたのなら、
夢の実現も夢ではない
感覚的になんとなくそんな感じがしていた。


ドライバーでのティーショット、
快心の一撃でフェアウェイキープ。

2打目の5ウッド。
少しフック目だったが前にある池を超えて、
左のラフへ。

グリーンまで、残り140ヤード。
つま先下がりの深いラフ。

スライスが出やすい状況だが、
得意の8番アイアンならグリーンは狙える。

心を落ち着けて軽くスイングしたが、
なんとシャンクが飛び出してしまったっ

泣きながらのアプローチでグリーンに乗せて2パット。
唯一残された可能性を、結果「ボギー」にしてしまった俺。
最終ホールを残して、俺の心は失意で濡れていた


この後の事はよく覚えていない。

全てが空っぽになってしまって振り切ったドライバー。
この日のラウンドの中で一番気持ちのいい当たりだった。

2打目、130ヤード。
グリーンに乗ればイイやと打ったショット。
ベタピンだった。

3打目。カップまで約50㎝。
上りの軽いフックライン。
今まで惜しいパットばかりが続いていたが、
これくらいの距離なら無理なく入るだろう。

何の不安も感じることなくストロークしてカップイン。
今回のラウンドで、初めてのバーディーが取れたホールだった。

確かに、このバーディーは嬉しかったが、
それより前半のプレーで「50打」と健闘していたにもかかわらず、
ここぞ!というホールで流れを掴めなかった自分が悔しい。

ドライバーも、少し左に引っかかることが多かったが、
それでもOBとかロストボールとか「ファー!」と叫ばなかったのを考えると、
やっぱり「気持ちで負けていた」このチキンハートを鍛え抜いていかない事には、
俺は成長する事が難しいということだろう。


最後のアテスト。
「Mオヤジ」がスコアを読みながら
俺に確認した。

「お前、最後バーディーだから、
後半13オーバーだろ?」


「そうだね、たぶん・・・。
えっ、ちょっと待って!「13オーバー」だって!?」


俺は、
再度自分のスコアをしっかり計算してみた。

「って事は、後半「49」じゃないの!?」

前半「50打」、後半「49打」
合計=「99打」

えぇーっ。マジですか、コレは!?

失意はあっという間に歓喜に変わり、
ジワジワと湧き上がっている嬉しさを
小さく拳を握りながら身体全体で静かに受け止め始めていた。

そして、
自分の前に大きく立ちはだかっていた「壁」がいつの間にか姿を消して、
そこには、緑に包まれた美しいコースが広がっている事に気が付いた
俺だったのだった・・・。





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