「勝てないプロ」と言われ続けてきた宮里優作が、
ツアー最終戦の
「ゴルフ日本シリーズJTカップ」で初優勝を果たした。
きっと、多くの人がこの優勝に歓喜の声を上げたと思う。
俺も、最終ホールのチップインを見て思わず
「やったゼ!」とガッツポーズをして叫んだ一人だ。
ジュニアの頃から
「天才」と呼ばれ、
アマチュア時代に数々の栄冠を持ってプロの世界に進んだが、
11年間も勝てない時を過ごしていた彼。
その戦歴からも
「勝って当然!」と周囲から注目され、
妹の宮里藍の活躍から比較されて、
「もっと頑張れ!」と常に激を飛ばされ、
若手の後輩たちがどんどんと優勝していく中で、
「初優勝はまだか?」とプレッシャーを受け続けながら11年間も優勝出来なかった彼の心中を考えると、
あの優勝シーンは涙なくしては見れないものだった。
しかし、それ以上に俺は、
彼の活躍を常に願っていたのだった。
実は、今からさかのぼる事6年前。
俺は
「日本プロゴルフ選手権」のボランティアとして群馬県のレーサムゴルフにいた。
そう、あの「石川遼」のラウンドにスコアラーとして付いて回ったあの話だ。
(日記はこちら→
「むら、プロツアーに出る!」」)
そのボランティアの二日目。
再びスコアラーを任命された俺が付いた組に、なんと宮里優作がいたのである。
予選二日目の大事なラウンド。
今日のスコアの良し悪しで、決勝進出になるか?それとも予選敗退か決まってしまう大事な一戦。
その大事な一戦に、ゴルフを始めて1年足らずの右と左をよく間違えるゴルフ初心者の俺が
スコアラーとして一日張り付いていたのだった。
その時の組み合わせは、
「宮里優作、藤田寛之、深堀圭一郎」というメンバー。
今、振り返ってみると、
何という豪華メンバーに囲まれていたのか!と自分でもビックリするが、当時はまだゴルフの事も、どんなプロがいるのかもよく分からない俺。
「プロってスすげぇボールを打つなぁー。
うわっ。一体どこまでボールが飛んで行くんだ?
バシっと打って必ずビタっですかっ。ほんにスゴイ!」と
ただただ周りの状況に圧倒されていたギャラリー気分のボランティアだったのである。
ちなみに、
「スコアラー」とはどんな仕事か?と言うと、
プラカードを持って選手のスコアをギャラリーに知らせる係り。
リアルタイムで、刻々と変化するスコアの情報を正確に伝える重要なミッションを背負っている。
各組には、
「マーカー」と呼ばれる選手のスコアを記録する係りが付いてはいるが、
スコアラーは、自分自身で選手のスコアを数えていかなければならない。
なぜなら、プロのプレー進行はものすごく早くて
いちいちマーカーに
「今、いくつでした?」と聞いている余裕は全く無いので、
自分で選手のプレーを見ながらプラカードの表示を変えていくのだ。
でも、ここでよく考えて欲しい。
その重要な係りに、まだゴルフを始めてたばかりのピッカピカの一年生の初々しい俺。
しかも、自分のスコアを数えるのにカウンターでは数が足りなくなるという超ゴルフ初心者。
さらに、ルールだって完璧にマスターしているワケじゃないし、プロのプレーを生で見るのもこれが初めての経験。
という事は、一見いかにも
「私はボランティアですけど、ゴルフは上手いですよ!」
という涼しい顔してプロの近くに立ってはいるが、
実際は、
「えっと、今はパーだったらかスコアの変動なしで、
ボギーは+1だから合計を変えなきゃ。」
と、あたふたしながら一緒にコースを回っていたのだった。
そんな時、宮里優作のティーショットがOBになった。
その場から打ち直して、次はフェアウェイ。
そして、グリーンに乗せて2パットでそのホールは上がった。
「えっ、今のいくつのスコアになるの?
OBは1打罰だっけ?それとも2打罰だっけ?
でも、ボールを打った回数が全部で5回だからボギーだよね?」
次のホールに行くまでにはスコア表示を変えなければならないが、
計算するのも一苦労。
焦りと緊張とよく理解していないが加わってもう冷静に計算も出来なくなっている。
とりあえずボギーって事で
「+1」の表示をして歩いていたら、
宮里優作がスッと俺に近寄ってきて、
「さっきのホールはダボだから、表示違うよ」
と小さく囁いたのだった。
「えっ、そうなの!?」
とんでもないミスをやらかしてしまった俺。
スコアを計算間違えする失態に、
それを堂々と表示してギャラリーに見せる失態。
さらには、プロ自身に
「ダボだよ」と言わせた失態。
ただでさえOBを打って心が穏やかでない状況に、
プレイヤーが口に出したくない言葉を言わせてしまうという
ツアー史上初の最低最悪のミスをやらかしてしまったのだった。
もう、恥ずかしいやら情けないやらの気持ちで一杯になっていたが、
不思議と
「あーあ、やっぱり俺ってダメだな・・・。」と落ち込むことは無かったのである。
なぜなら、その時の彼は、
いつも間にか静かにそっと俺に近寄ってきて、
さらに、何となく会話すような感じで耳の横で小さく
「ダボだよ」と囁いて
また何事もなかった涼しい顔をしてウェアウェイに戻り、
そして真剣な顔つきのプレイヤーに戻っていったのだった。
その一連の所作を間近で見た俺は、
「なんてスマートな立ち振る舞いなんだ・・・。
ほんと、優しい心に満ち溢れているよ・・・。」
と感じた。
彼はもしかしたら、
表示に手間どりあたふたしている俺を見て
「うん?初心者さんかな?」と感じたのかも知れない。
でも、それを分かっいたとしても、
自分のプレーに徹しなければならない状況の中で、
ただのボランティアにあんな風に声を掛けられるだろうか?
そして俺は一瞬で
「宮里優作ファン」になったのは言うまでもない。
そんな思い出が詰まった彼が、ついに初優勝を果たした。
これからは、この勢いに乗ってさらに優勝を重ねて行って欲しいと
この信州の雪空の真ん中で願っている俺なのである。