「第6回むら感謝還元コンペ」開催
その日は、いつもより早く目が覚めてしまった。
時計を見ると、針は
「5時30分」を示している。
まだ、太陽の日差しも届かない薄暗い朝だった。
布団の中で、
「もう少し眠れるな・・・」と目を閉じてみたが、
再び夢の中に戻ることが出来ない。
まだ起きる時間ではないのに、意識もハッキリしてきている。
身体は、もう少し休みたい感じを訴えていたが、
気持ちがそれを許さなかった。
なぜだろう?
時間はまだたっぷりとある。
6時に起きても十分に間に合うハズだ。
急に秋らしくなった陽気に、かなり冷え込む信州の朝。
これからは、布団の温もりがさらに恋しくなってくる季節だ。
俺の左腕の下には、猫が丸くなってうずくまっていた。
「そうだ。今日はあの日なんだよ・・・。」
いつもより早く目覚めてしまった理由は、
すぐに分かった。
そう、今日は年に一度行われるイベント、
「第6回むら感謝還元コンペ」が開催される日であった。
早速、コンペ会場に着いた俺は参加者を出迎える準備を始めた。
総勢16名。その中には、この日初めて会う人も数多くいる。
「一体、どんな人が来てくれるのだろうか?」と、
まだ見ぬ人達に大きな緊張感を抱きながら
受付の設置を進めて行った。
今回のコンペに俺は、
「ある賭け」を持って臨んでいた。
このラウンドの結果がもし
「吉」と出れば、
今後の生活は今まで通り平凡を絵に描いた様な日常を送ることになる。
しかし、もし
「凶」と出たならば、
これからの生活を
大きく見直す必要があるという判断になる。
まさしく
「激変」という言葉を身を持って表していくような、
そんな選択をこのコンペの結果に託していたのだった。
コンペのスタートに向けて、参加者のみんなが続々と集合し始めている。
お互い、それぞれが初対面の組み合わせ。
しかし、ゴルフという共通言語がその距離感を一気に縮めて
和やかな空気が周りを包んでいた。
この日も、透き通る青空が空一面に広がっていた。
開会式では、まず参加者全員の自己紹介を行った。
「上田から来ました」
「松本から来ました」
「上越から来ました」と、
ほとんどの人がこの地元以外の遠い場所からの参加で、
中には
「3年連続の参加です!」というリピーターも何人かいた。
続いて、競技方法の説明。
・新ぺリア方式のハンディー戦であること
・完全ホールアウト、オールノータッチであること
・パット数を数えておくこと
など、通常のコンペとは少し違う点も交えて、
一通りの説明のあと、一番重要な事を最後に伝えた。
「今回のコンペ。使用ティーはバックティー、青マークです!」
「えぇーっ!」
「ウソでしょ?」
「マジでっ!?」
との驚きの声が参加者からは一切上がらずに、
ただ冷静にその事実を置け止めていた。
緊張の第一打。
俺は、ドライバーを手に取って遥か彼方に見えるグリーンを見つめた。
さすがに、バックティーからは距離を感じる。
自分で言い出した事とはいえ、少し後悔の気持ちが頭の中をよぎった。
しかし、俺のゴルフライフが懸かっている大事なコンペに一定のハードルを設けなければ、
今までの丸5年間、一体何の為に汗と涙を流してきたのか分からなくなってしまう。
俺は、参加者全員の視線を背中に浴びながらティーショットを放ち、
この日も健在な
右曲りのどスライスを披露したのだった。
同伴者の3人は、もちろんこの日が初対面。
笑顔の優しいス~さんに、
カッチリ大型のAlexさんに、
初老の紳士、ヒロシさん。
3人とも
「アベレージゴルファー」という事だったが、
やはり初来場の
「信濃ゴルフ倶楽部の高速グリーン」には手を焼いている様子だった。
前半のプレーが終了して俺のスコアは
「51」。
OBが一つも無い安定したショットが打てていた。
そして、パット数が
「13」。
予想以上に固く締まったグリーンでこの調子なら、
後半の巻き返しにさらに望みが持てる。
俺は、今までに練習してきた
ゴルフの全てを出し切って、
プレーに悔いが残らない様に
後半のプレーを進めて行ったのであった・・・。
To be continued.
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