脱・ゴルフ初心者の練習日記

とうとうこの日がやってきてしまった。
俺の、今シーズンの「ラストラウンド」。


4月から始まったシーズンも、
8ヶ月間という期間を瞬く間に過ぎて
ここ信州のゴルフ場はすでに終わりを迎えていた。

あれだけ青々としていたコースの芝も、いつの間にか「黄色」へと変化して、
後は、ゴルフ場クローズまでの日数を指折り数える状況になっている。

風は冷たい。
目の前に見える北信州の山「妙高山」には、
ハッキリと白いモノが輝いていた。






今シーズンの俺は、
過去に例がないほどの好成績を収めていた。

「100切り」を記録したこと、すでに3回。
その中には「自己ベスト更新！」した成績がしっかり含まれている。

今までの丸6年間、全くの鳴かず飛ばずで100切りすら出来なかった事を考えると
もはや「奇跡を超えた奇跡！」としか形容できないほどにラッキーな状況だ。

このラッキーさをもってすれば、「年末ジャンボ一等賞」に当選するくらいは
朝飯前で可能だと感じている。

だから俺は、12月19日の金曜日の締切り日前には
朝食抜きで宝くじ売り場に並ぼうと思っているのだった。

前回のラウンドで「94」というスコアを出したコースは、
実は今シーズンの最後の「ラストラウンド」を迎えるゴルフ場でもあった。

という事は、
さらなる飛躍が期待出来るという事でもある。

一気にスコアを更新して「80台」いや、「夢の70台に突入！」することだって
やぶさかではないのだ。

俺は、大きな期待と小さな希望を胸に抱いて、
スタートの準備を整えていた。





このラストラウンドは、お得意先の「コンペ」だった。

一緒に回る同伴者も顔馴染みのメンバーだから
今回は緊張ナシのラウンドが出来る。

・絶好調の俺
・知り尽くしたコース
・馴染みの同伴者

というこの上ないスペシャルな舞台が用意されているのであれば、
もう結果は想像するに容易い。

俺の頭の中には
「シングルゴルファー・むら」
の姿が、ありありと浮かび上がっていたのだった。

「ふっふっふ。もう誰にも「ゴルフ初心者」だなんて呼ばせないぜ・・・。」

しかし、俺のニタニタした表情は、
もう一人の同伴者を紹介されて一気に凍り付いた。


「はじめまして。Yです・・・。」

若くて可愛い女性がそこに立っていた。

「どーも、むらですっ。ヨロシクね～。」

などと気軽に挨拶をした俺。
一瞬クールを気取ったが、やはり俺の表情は別のニタニタ顔に変わっていた。
そして、その表情が、
彼女の次の発言を聞いて一気に凍り付いたのだった。

「実は私、ゴルフするの初めてなんですぅ・・・。」

「へぇー、そーなの？コースに出るのが初めてなんだね？
じゃあ、今までは打ちっ放しの練習場だけだったんだ？」

「いいえ・・・。昨日初めてクラブを握りました・・・。」


えっ！
昨日初めてクラブを握っただと！？

聞いてみたらなんと彼女は、
昨日生まれて初めてゴルフクラブを手に取り、
そして約1時間くらい練習をしただけで
今日コンペに連れてこられたと言うじゃないか。

って事は、「ゴルフ初心者さん」！
って言うか、「ゴルフど素人さん」！？


こっ、これはマズイぞ。

彼女はお得意様の社員さん。
もう一人の同伴者も、お得意様の社員さん。
そして俺は「ただの参加者」

という事は、
俺が彼女の面倒を見なきゃイケナイって事だよな？立場的にも。

いや、逆に
「俺に面倒見させてくれ！」って感じだな。特にやましい気持ちはないけどっ。

いいや、そうじゃなくて。

俺は丸6年間もゴルフ初心者をやっているんだから、
「初めてのラウンド」を迎える人の気持ちは良く分かっている！
そして、初めてコースに出る時には一体何に気を付けて、
どんな事を意識してプレーすれば周りに迷惑を掛けないかという事を
完璧に熟知しているんだ。

さらにもう一つ言うならば、
どんなに練習しても全く上達の兆しすらなく、それでもこうして丸6年もゴルフ続けてきた俺には、
他の人とは違う「ゴルフの楽しさ」を伝えられる気がする。
だから彼女にも、
「初めてだったけど、ゴルフって楽しいんですね。」
と言う気持ちを感じてもらえるそんな初ラウンドに出来るかも知れない。

ヨシっ、分かったぜ！

自分の事もまともにならない俺でも、
もし「初ラウンド・初コンペ」の彼女の面倒みながら100切り、いや、
「さらに自己ベスト更新！」したというのなら
それこそ本物の「脱・ゴルフ初心者」の実力があるって証拠だろ！


そして俺は、
ティーアップのやり方が分からない彼女に「ゴルフの手解き」をしながら
今シーズン最後のゴルフを進めて行くのだった・・・。


To be continued.